[研究分野]


1.固体、特に、異方性の強い無機結晶における拡散現象

 具体的には、アルミナ(Al2O3)における表面拡散や、窒化珪素(Si3N4)の液相中における粒成長を研究してきました。一般に、ミクロの世界における物質移動の駆動力は、粒子表面の曲率半径が小さいほど大きくなることは、良く知られています。しかしながら、上記のような異方性の強い結晶粒子は、ファセットと呼ばれる原子レベルで平坦な結晶面を示しやすく、その曲率半径は無限大(表面張力=0)となってしまいます。この矛盾は、weighted mean curvature(日本語では、まだ、適当な訳がありません。加重平均曲率半径とでも、訳しましょうか。)という比較的新しい考え方を適用することにより、解決することができます。

 筆者は、上記の2つの材料(アルミナは六角板状を、窒化珪素は六角柱状のモフォロジーをもっております)における拡散現象を数値的にシミュレーションを行って解析し、基本的にファセットにおける物質移動が律速であることを示し、この2つの材料において観察されてきた数々の実験結果を説明することに成功しました。

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2.高熱伝導率β−窒化珪素セラミックス

 β−窒化珪素は、潜在的に 200 〜 300 W/m・K という高い熱伝導率を有する無機結晶ですが、これまでは、2000℃以上という高い温度で長時間の熱処理を行っても、せいぜい、100 W/m・K 程度でした。筆者は、β−窒化珪素セラミックスに特有の粒界ガラス相が、この材料の熱伝導率を決定的に低下させていること、高温・長時間の熱処理で粒成長を促進させても、熱伝導率向上への寄与は極めて小さいことを指摘しました。

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 さらに、窒化アルミニウムの場合と同様に、β−窒化珪素結晶格子にも酸素が固溶することを見出し、その熱伝導率への寄与を明らかにしました。また、固溶酸素量を最低にするための、焼結助剤の配合指針を提示しました。

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 最後に、希土類酸化物焼結助剤の種類は、窒化アルミニウムの熱伝導率に対してはあまり影響しませんでしたが、β−窒化珪素に対しては極めて大きく影響すること、具体的には、熱伝導率と希土類のイオン半径との間の強い相関性を見出しました。

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3.GHz帯電子デバイス用無機材料

 ここ数年間の移動体通信の進歩には目を見張るものがありますが、そのための材料開発は、それほど進んでいるとは言えません。この波長の電磁波に対する材料の挙動が、まだ、明らかになっていないからです。筆者は、最新のネットワーク・アナライザーを駆使し、GHz帯電子デバイス用無機材料の開発研究を行っています。

4.紫外線発光無機結晶材料

 現在、窒化ガリウムが青色や紫色を発光する半導体材料として脚光を浴びておりますが、酸化亜鉛や窒化アルミニウムは、さらに大きなバンド・ギャップを有し、将来の紫外線発光デバイス用の材料として研究が行われています。筆者は、これらの材料のキャリアーをコントロールする方法を研究しております。